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『福岡・九州地域演劇のこれから』

九州の地域演劇のこれからを考えるパネルトーク

九州演劇人サミット、時空の旅、九州戯曲賞などネットワークが形になり始めた現状があります。それらを踏まえて、今回のトークでは、九州の地域演劇のこれからについて意見を交わしました。

日時
9月11日(土) 17:00 ~ 18:30
パネリスト
泊篤志(飛ぶ劇場)
池田美樹(劇団きらら)
高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー)
進行
高崎大志(NPO法人FPAP)

■ここ数年の九州の地域演劇事情について

高崎:九州演劇人サミット、時空の旅、九州戯曲賞など演劇人のネットワークが形になり始め、福岡・九州地域演劇祭の実現に至ったという現状があります。
それらを踏まえて、九州の地域演劇のこれからについて意見を交わしたいと思います。
泊:九州演劇人サミットが続いて、九州の演劇人が一堂に会したことで、線と線の関係が円になった。お互いの状況が見えてきたことによって、一緒に活動したくなった。それが宮崎の時空の旅シリーズ(注1)につながったのかな。
池田:他県の人と作劇をしたり、交流会でいろんなつながりができて、お互いに観劇しあったり、ワークショップに参加しあったり、交流が生まれてきた。他県から客演を呼んだりすることも前よりハードルが下がったと思う。
高野:Meets!(注2)東京を介することなく福岡と札幌がつながった。わざわざ東京に出てくるのではなく、心理的に近いところにいる人たちと活動できるのはいいと思う。羨ましい。
CoRich舞台芸術!で多くの福岡の劇団を見かける。頻繁に情報更新されていて、公演数も多いので、福岡の団体の動きがよくわかる。
昨年、漂流画祭(注3)の公演を観て、福岡の劇団は元気で前向きでエンターテインメント志向の作風が多いんだなぁと思った。九州以外の世界に向けて拡がっていこうという動きも感じます。

  1. 注1:「演劇・時空の旅シリーズ」。宮崎県立劇場の自主企画制作公演。九州各県を拠点に活動する俳優が約1ヶ月宮崎に滞在し、古典作品を製作する。2009年に第1弾の「女の平和」、2010年に第2弾の「シラノ・ド・ベルジュラック」、2011年には第3弾の「三人姉妹」を予定。

  2. 注2:「札幌福岡演劇交流プロジェクトMeets!2007」。札幌NPO法人コンカリーニョが福岡のNPO法人FPAPとの協働で行った企画。年間を通して、ワークショップ、シンポジウム、脚本共作等を実施。演劇人同士の交流を深めた。2009年にはMeets!2009として札幌と福岡の劇団の共同執筆脚本の公演を両地で行った。
    札幌福岡演劇交流プロジェクトMeets!2009 公式サイト
     http://www.concarino.or.jp/nabenonaka/

  3. 注3:「漂流画祭」。2008年4月に急逝したシアターゴーワー、マヤ北島氏(享年43歳)を偲ぶイベント。8月1日に大博多ホール(福岡・祇園)で開催された。発起人は大塚ムネト(劇団ギンギラ太陽’s主宰)、池田美樹(劇団きらら代表)、田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス主宰)。




■劇場・音楽堂法と地域演劇への影響について

高崎:今、劇場・音楽堂法が検討されており、地域演劇の環境を変えていく可能性がある。大雑把に説明すると
・公立で、プロデュース公演をする機能を強化した拠点劇場を50箇所くらい作ろう。(創造型劇場)
・そこで作った芝居を他の地域に巡演できるようにしよう。
・劇団への助成ではなく、劇場に助成していくようにしよう。
という動きがあります。

泊:劇場で働く職員の免許制?ができて、劇場で働いている人の待遇などが変わるという話がある。また、地方の劇団への助成は地方で審査するような環境が検討されている。
高崎:劇場・音楽堂法ができるとすぐれた俳優が地域にいながら喰えるようになる。それをすごく望んでいる。全国をまわることも可能になる。
池田:田舎で稼働していない劇場がたくさんあるのを見かける。その劇場をどのように活用していくかが課題だと思う。また、ほとんどの劇場はさまざまな分野の芸術分野を扱い公演などしている。それぞれの分野はどうなるのでしょうか?
泊:どの分野の芸術に力を入れていくかというのはそれぞれの自治体による。歴史や地域性、もともと盛んだった分野などでそれぞれ力を入れる分野が変わってくると思います。でも、地元の自治体がぼんやりしていたらしょうがない。しかし、地域で声を上げていけばチャンスはあると思う。
高崎:分野によって、特化されることはあるかもしれない。その場合ある程度の広域圏で見てバランスを取ることが必要になってくると思う。
高野:作品を創造するという創造型劇場は数十件。それだけでなく、鑑賞型劇場という、創造型劇場で作った作品を呼んできて見せるという重要な役割を担う劇場も必要。地域で活用されていない劇場が必ずしも創造型劇場にならなくても、プログラムディレクターがよい作品を呼んでくる鑑賞型劇場になる道もある。だからもっと多様性があるんじゃないかと思っています。




■行政の役割

泊:今後自治体の競争が激しくなる。トップを選ぶのは市民。ちゃんとした人を選ばないといけない。なぜ税金を投入して劇場を持っているのか。行政がきちんと介入しないと地域では商業的に成立するものしか見られなくなり、多様な演劇を観ることができなくなる。劇場には多様な文化を紹介すると言う役割がある。行政が税金を使うことで、東京と同じレベルの芸術を鑑賞できる。東京との文化格差の解消をしていかなければならない。
池田:熊本の県レベルでは県立劇場もあり、活発に動いている。では、市は何ができるだろうか、ということを考えた。公演や発表をしたくても、どうすればいいだろう?というところで困っているという声を多く聞いて、基本的なマネジメントの講座をすることにした。県で大きい事業をしているので、市できめ細やかな入口になるような講座をするようにして棲み分けをした。



■九州の地域演劇のこれから

高崎:演劇祭で同時公演を行った三劇団を脅かすような若手の劇団が出てきて欲しい。
泊:出てきてほしい。が、そんなに脅かされる気がしない(笑)。演劇の才能が出てくるのは10年周期と言われている。今30代前半で頑張っている劇団がもっと面白くなったら九州の状況はもっと面白くなると思う。そのさらに10下となると25歳くらい。その辺を引っ張り上げられるように自分たちも頑張らないと。
高崎:確かに30代の劇団で活躍し、顔の見える活動をしている団体がいくつかある。その下の世代はどうやったら出てくるんですかね?
泊:知らない。だって僕らも誰から教わったわけでもないし・・。
高崎:泊さんの今後10年の野望は?
泊:今やりたいことは、高齢者劇団。
高野:それはどういう劇団?趣味で楽しくやりましょうという感じか、それともアーティスティックにしたいのか。
泊:最初は趣味だと思う。最初はね。
高野:東京でかんじゅく座(注4)という劇団がある。第1回公演では劇団員にプライベートな話を聞いて、それをもとに脚本を作って上演していた。劇団のドキュメンタリー映画が映画館でも上映され、DVDも発売された。その劇団で2度目の募集したら、応募が2倍以上になったとのこと。需要はあると思う。

  1. 注4:「かんじゅく座」。舞台を中心にプロデュースする女優・劇作家・演出家の鯨エマ氏とその演劇仲間が、「小劇場演劇の楽しみを中高年にも味わって欲しい」という想いで、2006年に立ち上げた。入団条件は、60歳以上の「素人」。


■福岡が九州で果たすべき役割

泊:九州で一番集客力はあると思うので。
高崎:集客は厳しい面がある。東京から劇団が福岡公演をしたいと相談をくれた時も、集客が厳しいことを伝えざるを得ない・・・。
泊:ショーケース的な、九州の地域劇団を紹介するような機能があれば。
高崎:それはごもっとも。その機能をもっと推し進めて行けばいいかな、と思う。
池田:福岡のいいところは批評をする人がたくさんいること。サイトや新聞でどう思ったということを披歴してくれる人が福岡以外の九州にはまだほとんどいない。福岡で公演して、リアクションをもらえる機会があるといいな、と思う。福岡で選ばれた作品が九州全体を回るような賞などがあるといい。
高崎:各県の公立劇場が推薦し、連続上演で審査して、優勝したら全公立劇場で回るようなのはどうだろう。
池田:そういうこと!
泊:実現するには10年はかかるかな。ただ、劇場・音楽堂法次第だけど。




■会場からの質問より

Q:社会人になっても演劇を続けられる方法はありますか?
泊:演劇を続けられるような仕事を見つけるのも才能と運。
高野:社会人になって演劇を続ける方法は1つじゃなくて、もっと多様的にとらえればいいと思う。付き合い方もいろいろです。

Q:地域に足りないこと、今後必要なこととは?
池田:今、東京から演出と俳優2名がきて劇を作っている。昼の13時~の稽古だけどなかなか人が集まれない。東京と熊本では事情が違うということに配慮しなければいけないと思う。
高崎:確かに。昼間の稽古や、生活とのバランスが取れないギャラの体系など、かえていかなければと思う。
泊:みんな一回は社会人になっていた方がいいと思う。やめるのはいつでもやめられる。
高野:新卒採用の就職活動は体験しておいた方がいい。社会的常識は必要。
高崎:ツアーに行くような劇団の役者などは厳しいかもしれないが、仕事をしながら1、2年に1度公演しているような劇団もある。演劇を続けていく方法はいろいろある。
泊:生活とともにある演劇は確実に地域にあると思う。そこを批判するのではなく、胸を張って誇りを持ったらいい。
高野:ある地域で生まれ育って、そこで暮らしながら同じ地域の人と一緒に演劇を作り続けるという状況は、東京にはおそらくない。地域で活動していることをポジティブにとらえて誇りを持ってほしい。

Q:他都市での公演での苦労や反応の違いはありますか?
池田:反応はどこでも違う。他都市での苦労と言えば広報面かな。
高崎:福岡のお客さんは反応がいいと聞くが。
泊:そう。博多のお客さんは笑いたがっている。
高野:飛ぶ劇場公演で参加席(注5)からうまっていたのが意外だった。福岡のお客さんは自分から面白い事を求めて参加しようとする気持ちがあるのだと思います。

  1. 注5:飛ぶ劇場公演「睡稿(すいこう)、銀河鉄道の夜」では観客参加型の演出があり、参加席と鑑賞のみの非参加席を観客が選択できるようになっていた。

Q:これからの10、20代の演劇人がどうなっているか、予想してほしい。
高野:福岡・九州には温かい先輩がたくさんいるので、安心して飛び出していける感覚があると思います。
池田:自分がやってる感でいっぱいになって酔ってしまうと、20代半ばで壁にあたる。いろいろ経験してほしい。演劇だけじゃなくて。 若いうちはエッセイ芝居で、自分の部屋の中だけ書いていればもてはやされていた。私は、自分の部屋の中だけでなくて外とのつながりを意識しなくてはならなくなったときに壁に当たった。

Q:福岡・九州の学生演劇の活性化はどうして行ったらいいか?
高崎:大学演劇部の合同公演は今後も続いてほしい。大学生たちから合同公演をしたいという声が出てきてほしい。それをバックアップしていきたいと思っています。今回の大学演劇部合同公演でできたネットワークを今後も続けて行きたい。

Q:伝統のある劇場が演劇人以外の人に認知されるようにするにはどうすればいいか?
池田:八千代座(注6)ではワークショップやダンスや小学生の発表をしたりしている。そんなことをすればいいのでは?
高野:小さいころから観劇だけでなくワークショップなどで劇場に通ったりすれば、愛着がわくと思います。

  1. 注6:八千代座。熊本県山鹿市にある国指定重要文化財。
    八千代座 公式サイト
    http://www.yachiyoza.com/index.html

Q:大学の演劇部です。新入生など新しく入ってくる役者をどう育てていったらよいか?
高野:東京の大学演劇だと、例えば早稲田大学では演劇研究部(に相当する部活動)がずっと続いていて、独自の方法論などを代々レクチャーしている。最近、気鋭の劇団が多く輩出されているのは桜美林大学。桜美林では専門の講師が教育している。それでも、学生演劇は先輩後輩の関係の中で受け継がれていく部分が大きいと思う。教えてくれる人を呼んで一緒にやってみるのはどうでしょう。
泊:ワークショップに手当たり次第受けに行くのを奨励するなどもいいかも。
池田:決めた時間から稽古をきっちり始めると言うのも即効性があって有効だと思います。

Q:福岡・九州地域演劇祭はまたあるか?
高崎:(笑)あるとしても、5年後若しくは10年後ですね。

Q:FPAPの今後は?
高崎:これまでどおり、地道に活動していきます。(笑)

Q:福岡の劇場の設備レベル、新しい劇場などについて
高崎:政府の方針としても、劇場・音楽堂法や創造型劇場等の構想がある。福岡に今後新しい劇場ができる可能性はあるだろうと思っている。地元の演劇人がこんな劇場が欲しいと声を上げて行くことが大事だと思う。
以前劇場ができるという話になった中で、地元の団体にとって客席200くらいの劇場がいいという結論をとりまとめたこともある。

Q:10年後に向けて地域演劇人がやっておくべきことは?
高野:ひとくちに演劇といっても、作品を作って発表する以外にも色んな活動があるということを、実際に見聞きし、体験するのがいいと思う。
日本で唯一の国立の俳優学校というと新国立劇場演劇研修所。他にも演劇関連の教育機関は増えていて、例えば四国の大学に平田オリザさんを中心に演劇学科ができる(注7)。そこの講師は先進的な人が多い。演劇教育の道に進むなら、ワークショップデザイナー育成プログラムもある。充実した教育機関が九州のどこかにあればいいなと思う。
高崎:演劇が今後どうなっていくか分からない。才能がある人が頑張って報われるシステムはきっとできる。実力を養って、質の高いものを作って欲しい。
池田:10年前の福岡九州と比べて、“今、ここで”できることが増えてきた。人の心を読み合う演劇の作業も社会的な需要が増えてきた。心のやり取りをする演劇の役割はもっと増えて行くだろう。演劇で、ここで、続けて行くことを探して実行していくのがいいのではないかと思います。
演劇だからできること、を増やしていくこと。どんな需要があるのかを見渡して、公的な機関に働きかけをしていくことをしていくのがいいと思う。
泊:目の前のお客さんにごまかされるな。今、目の前にいるお客さんに喜ばれるものを作り続けて行けば必ず疲弊する。今のお客さんの創造を超えるものをつくるような気概を持っていかないと。テレビや映画に負けない価値を与えるような気持ちで取り組んでいってほしい。

  1. 注7:四国学院大学に中四国地区初の、本格的な演劇専攻コースが誕生する。
    四国学院大学 公式サイト
    http://www.sg-u.ac.jp/view.rbz?of=1&ik=0&pnp=14&cd=692