九州演劇人サミット、時空の旅、九州戯曲賞などネットワークが形になり始めた現状があります。それらを踏まえて、今回のトークでは、九州の地域演劇のこれからについて意見を交わしました。
高崎:九州演劇人サミット、時空の旅、九州戯曲賞など演劇人のネットワークが形になり始め、福岡・九州地域演劇祭の実現に至ったという現状があります。
それらを踏まえて、九州の地域演劇のこれからについて意見を交わしたいと思います。
泊:九州演劇人サミットが続いて、九州の演劇人が一堂に会したことで、線と線の関係が円になった。お互いの状況が見えてきたことによって、一緒に活動したくなった。それが宮崎の時空の旅シリーズ(注1)につながったのかな。
池田:他県の人と作劇をしたり、交流会でいろんなつながりができて、お互いに観劇しあったり、ワークショップに参加しあったり、交流が生まれてきた。他県から客演を呼んだりすることも前よりハードルが下がったと思う。
高野:Meets!(注2)東京を介することなく福岡と札幌がつながった。わざわざ東京に出てくるのではなく、心理的に近いところにいる人たちと活動できるのはいいと思う。羨ましい。
CoRich舞台芸術!で多くの福岡の劇団を見かける。頻繁に情報更新されていて、公演数も多いので、福岡の団体の動きがよくわかる。
昨年、漂流画祭(注3)の公演を観て、福岡の劇団は元気で前向きでエンターテインメント志向の作風が多いんだなぁと思った。九州以外の世界に向けて拡がっていこうという動きも感じます。
高崎:今、劇場・音楽堂法が検討されており、地域演劇の環境を変えていく可能性がある。大雑把に説明すると
・公立で、プロデュース公演をする機能を強化した拠点劇場を50箇所くらい作ろう。(創造型劇場)
・そこで作った芝居を他の地域に巡演できるようにしよう。
・劇団への助成ではなく、劇場に助成していくようにしよう。
という動きがあります。
泊:劇場で働く職員の免許制?ができて、劇場で働いている人の待遇などが変わるという話がある。また、地方の劇団への助成は地方で審査するような環境が検討されている。
高崎:劇場・音楽堂法ができるとすぐれた俳優が地域にいながら喰えるようになる。それをすごく望んでいる。全国をまわることも可能になる。
池田:田舎で稼働していない劇場がたくさんあるのを見かける。その劇場をどのように活用していくかが課題だと思う。また、ほとんどの劇場はさまざまな分野の芸術分野を扱い公演などしている。それぞれの分野はどうなるのでしょうか?
泊:どの分野の芸術に力を入れていくかというのはそれぞれの自治体による。歴史や地域性、もともと盛んだった分野などでそれぞれ力を入れる分野が変わってくると思います。でも、地元の自治体がぼんやりしていたらしょうがない。しかし、地域で声を上げていけばチャンスはあると思う。
高崎:分野によって、特化されることはあるかもしれない。その場合ある程度の広域圏で見てバランスを取ることが必要になってくると思う。
高野:作品を創造するという創造型劇場は数十件。それだけでなく、鑑賞型劇場という、創造型劇場で作った作品を呼んできて見せるという重要な役割を担う劇場も必要。地域で活用されていない劇場が必ずしも創造型劇場にならなくても、プログラムディレクターがよい作品を呼んでくる鑑賞型劇場になる道もある。だからもっと多様性があるんじゃないかと思っています。
泊:今後自治体の競争が激しくなる。トップを選ぶのは市民。ちゃんとした人を選ばないといけない。なぜ税金を投入して劇場を持っているのか。行政がきちんと介入しないと地域では商業的に成立するものしか見られなくなり、多様な演劇を観ることができなくなる。劇場には多様な文化を紹介すると言う役割がある。行政が税金を使うことで、東京と同じレベルの芸術を鑑賞できる。東京との文化格差の解消をしていかなければならない。
池田:熊本の県レベルでは県立劇場もあり、活発に動いている。では、市は何ができるだろうか、ということを考えた。公演や発表をしたくても、どうすればいいだろう?というところで困っているという声を多く聞いて、基本的なマネジメントの講座をすることにした。県で大きい事業をしているので、市できめ細やかな入口になるような講座をするようにして棲み分けをした。
高崎:演劇祭で同時公演を行った三劇団を脅かすような若手の劇団が出てきて欲しい。
泊:出てきてほしい。が、そんなに脅かされる気がしない(笑)。演劇の才能が出てくるのは10年周期と言われている。今30代前半で頑張っている劇団がもっと面白くなったら九州の状況はもっと面白くなると思う。そのさらに10下となると25歳くらい。その辺を引っ張り上げられるように自分たちも頑張らないと。
高崎:確かに30代の劇団で活躍し、顔の見える活動をしている団体がいくつかある。その下の世代はどうやったら出てくるんですかね?
泊:知らない。だって僕らも誰から教わったわけでもないし・・。
高崎:泊さんの今後10年の野望は?
泊:今やりたいことは、高齢者劇団。
高野:それはどういう劇団?趣味で楽しくやりましょうという感じか、それともアーティスティックにしたいのか。
泊:最初は趣味だと思う。最初はね。
高野:東京でかんじゅく座(注4)という劇団がある。第1回公演では劇団員にプライベートな話を聞いて、それをもとに脚本を作って上演していた。劇団のドキュメンタリー映画が映画館でも上映され、DVDも発売された。その劇団で2度目の募集したら、応募が2倍以上になったとのこと。需要はあると思う。
泊:九州で一番集客力はあると思うので。
高崎:集客は厳しい面がある。東京から劇団が福岡公演をしたいと相談をくれた時も、集客が厳しいことを伝えざるを得ない・・・。
泊:ショーケース的な、九州の地域劇団を紹介するような機能があれば。
高崎:それはごもっとも。その機能をもっと推し進めて行けばいいかな、と思う。
池田:福岡のいいところは批評をする人がたくさんいること。サイトや新聞でどう思ったということを披歴してくれる人が福岡以外の九州にはまだほとんどいない。福岡で公演して、リアクションをもらえる機会があるといいな、と思う。福岡で選ばれた作品が九州全体を回るような賞などがあるといい。
高崎:各県の公立劇場が推薦し、連続上演で審査して、優勝したら全公立劇場で回るようなのはどうだろう。
池田:そういうこと!
泊:実現するには10年はかかるかな。ただ、劇場・音楽堂法次第だけど。
Q:社会人になっても演劇を続けられる方法はありますか?
泊:演劇を続けられるような仕事を見つけるのも才能と運。
高野:社会人になって演劇を続ける方法は1つじゃなくて、もっと多様的にとらえればいいと思う。付き合い方もいろいろです。
Q:地域に足りないこと、今後必要なこととは?
池田:今、東京から演出と俳優2名がきて劇を作っている。昼の13時~の稽古だけどなかなか人が集まれない。東京と熊本では事情が違うということに配慮しなければいけないと思う。
高崎:確かに。昼間の稽古や、生活とのバランスが取れないギャラの体系など、かえていかなければと思う。
泊:みんな一回は社会人になっていた方がいいと思う。やめるのはいつでもやめられる。
高野:新卒採用の就職活動は体験しておいた方がいい。社会的常識は必要。
高崎:ツアーに行くような劇団の役者などは厳しいかもしれないが、仕事をしながら1、2年に1度公演しているような劇団もある。演劇を続けていく方法はいろいろある。
泊:生活とともにある演劇は確実に地域にあると思う。そこを批判するのではなく、胸を張って誇りを持ったらいい。
高野:ある地域で生まれ育って、そこで暮らしながら同じ地域の人と一緒に演劇を作り続けるという状況は、東京にはおそらくない。地域で活動していることをポジティブにとらえて誇りを持ってほしい。
Q:他都市での公演での苦労や反応の違いはありますか?
池田:反応はどこでも違う。他都市での苦労と言えば広報面かな。
高崎:福岡のお客さんは反応がいいと聞くが。
泊:そう。博多のお客さんは笑いたがっている。
高野:飛ぶ劇場公演で参加席(注5)からうまっていたのが意外だった。福岡のお客さんは自分から面白い事を求めて参加しようとする気持ちがあるのだと思います。