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この企画は、戯曲ブラッシュアップのためのリーディング企画として、
新進劇作家の新作を、実際に役者によるリーディングをおこなったあと、
観客の皆さんを含めて作品についてのディスカッションをして、
作品をよりよいものにしよう、という企画です。
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さて、ここからが、本格的なステップ3です。
ステップ3では、具体的な質問が多く見受けられました。
例えば、観客の方から、「こだわった名前が多かったですが、意識されていたのですか?」という質問に対して、
「強い名前にしたいと思っていて。仕事柄、北関東圏の地名を見ることがよくあって、その中から強そうな名前を選びました」と藤原さん。
すかさず、前田さんから、「わざとフィクショナルな名前にしたんだよね?名前をつける際にこだわるタイプ?」と藤原さんに質問がありました。
これに対し、藤原さんは、RPGゲームなどで、キャラクターに名前をつける際も2時間くらい悩むタイプだとお話されていました。
「役名のバランスってすごく難しいですよね。珍しい名前ばっかり集まると、変な意味合いがでちゃう時ありますよね。僕はいつも、バランスを見ながら、間をとって名前をつけるようにしています。平凡な名前をつけたら、今度は珍しい名前にしてみたり。けどさ、けっこう気を使ってつけた名前でも、山本とか、山崎とか、似たような名前になっちゃって、稽古場で、あれ俺どっち?って俳優が困ってる、なんてこともありましたね。」と前田さん。前田さんも、役に名前をつける時は、すごく気を使うそうです。
観客の方からは、「おじさんと、越戸は同じ人なんですか?」といった、質問もありました。
これに対し、「ちがいます」と、藤原さん。
「おじさんは、演劇を擬人化したような存在です。越戸は不在なんだけど、無意識的に皆が欲しているというつもりで書きました。」と説明がありました。
前田さんから、「(不在の設定を設けることについて)『ゴドーを待ちながら』は意識したんですか?」と、質問がありました。
「意識していないんですが、『ゴドーを待ちながら』みたいって言われないように、最後に越戸を登場させました」と藤原さん。
「じゃあ、わざとずらしたんだよね。それって、やっぱ意識してるってことだよね。不条理演劇でさ、ちょっと人を待ったりすると、すぐ『ゴドーを待ちながら』でしょって言われちゃいますよね!」と前田さん。
前回のブラッシュ第一弾でリーディングを行った山下キスコさんの『彼女B』でも、人を待つ設定の戯曲だったので、『ゴドーを待ちながら』の話題が出ました。
70年以上も昔に書かれたベケットの戯曲が、現代にも及ぼす影響力の大きさを感じました。改めて戯曲の力はすごいのだなと思いました。
さて、ステップ3、まだまだ質問は続きます。
ゲスト劇作家の前田さんからは、「タイトルの『ハバブレイ(ク)』の(ク)ってどういう意味?」と質問がありました。
「ひと昔前のキットカットのCMからとっています。ネイティブに発音すると、(ク)が聞こえないっていう、あれです。あと、コーヒーブレイクもかけました。あともうひとつの理由が、単純に、(ク)とすれば、ネットで検索をした時に、他にひっかからないかなぁと思いました」と、藤原さん。
タイトルにも、藤原さん流にこだわりが見受けられました。
最後に、細部にリアリティを持たせようとすると、職場など、自分の身近な場所が題材になってしまうという藤原さんに対して、前田さんから、「自分起点で戯曲を書き出すと、まだちょっとしか生きてないし、過去に遡るしかなくなって、ネタが行き詰ってしまうから、そこが難しいよね。今度は自分起点でなくて書いてみるといいかもね」というアドバイスがありました。
藤原さん、次回作は、自分起点ではない物語を書いてみる予定とのことです。
ステップ4では、「(作者に)許可をもらって」の質問です。
こうすればもっと良くなるのではないか、といった建設的な意見などを作者に許可を得てからの質問、意見交換をおこないました。
観客の方からは、「この作品は、観客の想像力を掻き立てるようなお芝居なんだろうと感じ、その中でも、おじさんや越戸は、その象徴だなと感じました。おじさんや、越戸が象徴だと、もっとわかりやすくなると、後の余韻もかわってくるのではないかと思いましたが、どうでしょうか?」と、質問がありました。
この質問に対し、藤原さんからは、「僕は、かなりはっきり書いていたつもりでした。受け取られ方には、個人差があると思うので、それはそれでいいと思っています」と、回答がありました。
この質問に対し、前田さんからも、「僕も、はっきりしていると思った。それって、個人差だよね。ここにいる全員が、違う考えなんだろうね。」と、お話しがありました。
また、他の観客の方から、「戯曲を書くときは、舞台はイメージして書いているのですか?それはどんな感じですか?」との質問に対して、
「舞台はイメージして書いています。自由に動けるスペースがあまりなくて、周りに梱包された段ボールがある感じです。ベランダには、タバコを吸うスペースと、灰皿があって、人が越えられるような柵をつけます」とかなり具体的なイメージを話す藤原さん。
前田さんからは、「抽象的な舞台でやるのもおもしろいかもね。予算の問題もあるじゃない?あまりお金がない中で、舞台美術を建てこんでも、ベニアにペンキを塗っただけの壁とかになると、ザ・セットって感じになっちゃう。そうすると、逆にリアルじゃなくて、ダサくなっちゃうし。」と、実際に上演する時の舞台装置に関することなど、演出的なアドバイスもありました。
最後に、ゲスト劇作家の森さんからは、「おじさん」の存在が気になった。この人がすごく偉い人で、査定しに来たのではないか、誰を首にしようと見に来たのではとか想像していたので、引用のシーンは、おじさんがふざけて、査定の結果の暗号を話しているのかと思った。」と、率直な感想が語られました。
また、藤原さんの戯曲に多数登場した時事ネタについて、前田さんから、「リアリティを持つために、時事ネタをどれくらい入れるかって難しいんだけど、今回の藤原さんの戯曲の場合、時事ネタのウエイトが少し重すぎるかなと思った。時事ネタを入れると、5年後に戯曲を読んだ人には、ダサくうつる可能性がある。芝居をリアルタイムで観た2,000人よりも、その後に、戯曲を読む人って、けっこう多いんだよね、50年、60年後のことを考えると。だから、もっと長い時間軸を視野に入れて戯曲を書くといいよ。戯曲って残るからね。」と、アドバイスがありました。
最後に、前田さんから、藤原さんに先輩劇作家としてのアドバイスもありました。
「藤原さんは、自分が“書ける”ということを、認めなきゃいけない。今はまだ、認めてない気がするんだよね。自分は劇作家だってことを試すようなことや、観客に俺って劇作家でしょ?劇作家でいいんだよね?って問いかけるような戯曲になってる。例えば、戯曲の中で、デリタを引用したり、最後に構造的に戯曲をくずしたりって。それって、劇作を始めた劇作家の誰もが通る道なんだけどね。そういう、自分を試すようなことをやめて、初めて劇作家としての真価が問われてくるんだと思います。自分は“書ける”って、覚悟を決めて、(技術とか、知識でなく)書きたいと思ったものが、ある意味、本当の藤原さんの部分だし、そこに俺は興味があるよ。」
前田さんのお話しは、藤原さんだけでなく、劇作家をめざすすべての人にとって、参考になるお話しでした。
以上4つのステップを経て、ディスカッションは無事に終了しました。
4つのステップでのディスカッションを経て、ゲスト劇作家の方のみならず、観客の皆さんからも、作品について、たくさんの感想、質問、意見などが出てきました。
それにより、藤原さんの戯曲の魅力を会場の皆さんで発見できたように思います。
また、ゲスト劇作家のお二人からは、劇作的にも、演出的にも、参考になるお話しを伺うことができました。
ブラッシュ終了後に回収したアンケートの中には、「人の意見を聞く機会はなかなかないので、面白かった!」といった、自分とは違った感想を持った人の話を聞くことが楽しかったというご意見をたくさんいただきました。
ブラッシュに参加した観客の皆さんにとっても、色々な発見があったようです。
また、ディスカッションを終えた後、交流会でお話しさせていただいた参加者の方の「今回、参加してみて、戯曲がわからないなら、わからなくていいんだってことに気が付きました!」という言葉がとても印象的でした。
前田さんから、「必ずしも戯曲を理解する必要はない。理解しなくても、会話が楽しくて、楽しいなって笑っていてもいい。でも、理解したいと思ってお芝居をみる人もいるから、難しい言葉を引用しちゃうと、嫌な感じがしてしまうからね。」とお話しがあったように、観客側も、必ずしも、戯曲を「理解」する必要はないのだと思います。
色々なタイプの劇作家がいる中で、戯曲を頭で理解する観客もいれば、心で感じる観客もいる。その多様性が、戯曲という表現形式を豊かで重層的なものにしていくのだと感じました。
今回のブラッシュを経て、『ハバブレイ(ク)』がどんな作品にブラッシュアップされていくのが楽しみです。
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