この企画は、戯曲ブラッシュアップのためのリーディング企画として、
新進劇作家の新作を、実際に役者によるリーディングをおこなったあと、
観客の皆さんを含めて作品についてのディスカッションをして、
作品をよりよいものにしよう、という企画です。
今回の作品『彼女B(かのじょさん)』のリーディングでは、
福岡で活動する役者の皆さんのご協力を得ておこないました。
役者の皆さんには、「ブラッシュ」開催当日の14時頃に集まっていただきました。
作者の山下さんより簡単に作品について説明をした後、
1,2回読み合わせをし、打ち合わせをおこなってから17時から本番、
というスケジュールでおこないました。
17時からリーディングの開始です。
上演時間は45分。
お客さんには、イメージの手がかりの一つとして、
キャスト配置と、戯曲登場人物の相関図がわかるペーパーを配布しました。
リーディングの後は、10分ほどの休憩をはさみ、
参加劇作家の山下さん、ゲスト劇作家の土田さん、田辺さん、役者の皆さん、
そしてお客さんも含めてのディスカッションをおこないました。
ディスカッションに入る前に、ディスカッションの進め方についてのルール説明。
今回「ブラッシュ」のディスカッションでは、
4つのステップに分けて順を追って進めていきました。
<4つのステップ>
ステップ1:観客から作者へ(心に残ったこと、感想。否定的な発言はNG)
ステップ2:作者から観客へ(作者から観客へ聞いてみたいこと。なるべくシンプルに応える。)
ステップ3:観客から作者へ(中立的、偏りのない質問)
ステップ4:観客から作者へ(許可をもらっての質問。こうすればもっと良くなるのではないか。)
ステップ1では、
『彼女B(かのじょさん)』というタイトルの良さや、
作品の中に出てくる「彼女たち」の妄想のシーンが印象に残った、ホラーのようでよかった、などの他、
一人の男性をめぐっての「彼女たち」の狂気じみたやりとり、そのやりとりについての様々な解釈などについて
意見が交わされていました。
ステップ2では、
作者の山下さんから観客へ、
選択肢の中からの挙手という形でいくつかの質問が出されていました。
「登場人物の誰に感情移入できたか」「ワンピースの女は本命だと思ったかどうか」
「男性(彼)の年齢」などなど。
山下さんが作品を書いていく中で、お客さんにどういうふうに伝わるか不安に思ったことなどの
質問が出ていました。
ステップ3では、観客から作者へ、できるだけ具体的に、偏りがない質問(たとえば、
「このシーンは○○を表していると思ったが、どういう意図でおこなっていたか」など)を
ディスカッションしました。
「ラストに出てくるワンピースの女の登場は最初から決まっていたのか、
試行錯誤の末そうなったのか」「タイトルはどういう意味でつけたのか」「ラストに彼から来たメールはどんな内容だったのか」などの質問が出ていました。
また、作品が持つ具象性と抽象性について、そのバランスなどについても、
ゲスト劇作家のお二人などから質問や意見が出され盛り上がっていました。
ステップ4では、「(作者に)許可をもらって」の質問。こうすればもっと良くなるのではないか、といった建設的な意見などを作者に許可を得てからの質問、意見交換をおこないました。
ゲ スト劇作家の田辺さんからは、
田辺さん 「登場する「彼女たち」が4人とも割りと気があっている感じがした、もしかしたら1人を4つにわけたような意識で書いている のではないか」というお話しがあったり、
同じくゲスト劇作家の土田さんから、
土田さん「詰まっているところや困ったところで場を変えている感じがある、詰まってい るところを踏ん張るとまた違う世界が見えてくるのではないか?」といった劇作家としてのアドバイスも含めたお話しがありました。
お客さんからも、「「彼女たち」がどれだけ「彼」を好きなのか、という情熱が自分には感じられなかった、「彼女たち」は淡々として楽しそうだったが、それぞれの「彼」への「愛」とか「執着心」みたいなのはどれくらいあるのかなと思った」といった意見も出ていました。
それに対して山下さんからは、
山下さん 「余白をつくりたいと思ったので、この人がどれくらい彼が好きだ、というのは作っていない」
というお話しがあり、また、作品中の「彼女たち」について、「思考の連鎖で反応していくことをベースに作っていくことがやりたくて、音を取り間違えてつながっていく、ということを作りたかったので、「彼女たち」がよく喋る感じにした。」というお話しがありました。
その他、土田さんや田辺さんから、今回の作品は恋愛ものであるが、作品が清潔すぎるかもしれない、もっと性の問題などを交えるといいかもしれないといったアドバイスもありました。
また、
土田さん 「自分にも経験があるが、書いていてのって書いたところと、
のれずに書いているところがあると思うから、そののっていないところをもう少しイメージを
ふくらませるといいかなと思う。自分の個を中心に、それをどれだけ普遍化するか、
それが表現だと思う。」
劇作家の先輩としての素敵なアドバイスもありました。
4つのステップを経て、作品について、お客さんからもたくさんの感想、意見などが出て有意義なディスカッションができました。
今回の「彼女B(かのじょさん)」という作品は、明解なストーリー、ドラマ性を重視した作品ではなく、
具象的な物事の中に、抽象的、比喩的な表現も盛り込まれた作品でしたが、
客席からはその意味合いや解釈を求める感想が見受けられました。
リーディング後のディスカッションで、作品に描かれた具象性、抽象性についても
議論が交わされたことは、作者やその場に参加した方々にとっても、
作品理解をもう一歩すすめるための良い機会になったと思います。
今回の作品中に登場する「彼女たち」が繰り広げる(広がっていく)妄想の小気味悪さや
一方で「彼」に執着する「彼女たち」からあくまで一歩引いたような作家の姿勢、
俯瞰した感覚で展開されていく抽象的な作品の世界観についても多く意見が交わされました。
戯曲を書く上での技術的、技巧的な部分における良し悪しによった視点ではなく、
作者の意図する表現の方向性に沿ったディスカッションは、
作品の魅力の発見、作品理解のための建設的な意見交換の場になったのではないかと思います。
ゲスト劇作家のお二人の、分かりやすい語り口での作品分析や
劇作家としての経験による切り口は、参加劇作家の作品創作において参考と刺激になったようでした。
また、観客としてご参加いただいた参加者から寄せられたアンケートからは、
他者の感想や意見を聞いて、自分の考えと違う視点からの感想・意見も聞くことで
作品に対する理解や興味を深める機会になったことが伺えました。
今回の企画は、作品のブラッシュアップという効果の他に、
作品のもつ魅力を、能動的に見つけてその場で共有していくという作業を通じて、
それが決して表現者のためだけでなく、客席からご参加いただいた参加者を含めて
「戯曲」という創造表現への理解という、社会性をもった有益なものに
繋がっていくことが期待できる場であると感じました。
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