FPAPは現在、福岡で地域舞台芸術団体の利用が最も多いホールの運営を行っているNPO法人です。あわせて、舞台芸術振興事業も行っています。(舞台芸術振興事業の内容については、FPAPサイト http://www.fpap.jp を参照下さい)
私個人としては、今後他都市でも同じような取り組みが増えて欲しいと思っています。そのために、なにもしないよりはメリットがあるだろうと思い、表題についてこれまでの流れを記述したいと思います。なにとぞ好意的に解釈して、ご高覧いただければ幸いです。ここが変だぞという指摘については柔軟に修正していきたいと思います。
現時点でFPAPが成功しているのかどうか、よくわかりません。成功しているのかどうか分からないけど、成功したらという前提で考えます。失敗と評価されたときは、これから述べる手順のどこかにエラーがあったと言うことで、それはそれで参考になるでしょう。
なお、内容上、どうしても福岡市文化芸術振興財団(以下「財団」と表記)との関わりについて触れざるを得ず、その点でややもすれば勝手な見解を書いています(内部判断のようなものまで)が、これらの見解はあくまでFPAPとしての視点からの類推の域を出ないと言うことを申し上げておきます。私はこれまで劇団の制作者として舞台芸術との関わりが長かったのですが(詳細は http://www3.to/pinstage 参照)、制作という仕事はいかに自分の所属する団体を客観的にみるかという要素を訓練される部署なので、FPAPについても同様にできる限り客観的な立場に立ってみていきたいと思います。
まず財団が、地元舞台芸術団体の最も利用の盛んなホールを、地域の舞台芸術関係者で設立した演劇支援活動を主とするNPO法人に管理運営を委託してはどうかという考えを持った所からこの話は始まっているようです。
財団は、<これまで受付管理を委託しているビル管理業者は舞台芸術とは無縁の企業である。基本的には受付に関する業務が仕事の中心だが、受付業務を行いながらその他の事業をすることが出来るだろう>というところに着目したのだと思われます。そして受付管理業務を、舞台芸術団体からなるNPOに委託すれば、受付業務以外に、いろいろと舞台芸術文化振興事業(以下「振興事業」と表記。)をやれるだろうし、利用者の立場に立った受付管理を行うだろう(管理という面から見れば、マイナス面もあるかも知れませんが)と考えたのだと思います。
補足しますと、ぽんプラザホールがホールの受付、清掃、警備、小屋付き業務を一括委託ではなく、分割して発注していたことも幸いしました。一括委託ということであれば組織基盤の脆弱なNPO法人には対応できないでしょう。これについてはビル管理業者から演劇支援活動を主とするNPOに委託先を変えただけで、特段の予算要求も不必要なのではないかと思います。そんなわけで、FPAPの現在の振興事業は行政からみれば、予算増をまねかずに得た果実のようなもので、優れた視点だなぁと感じざるを得ません。
財団もノーリスクであったとは言えません。これまでビル管理業者がやっていたことが、なんのノウハウもない設立したばかりのNPO法人にできるのか、というリスクがあるわけです。主事業は受付管理業務なのですから、委託を受けたNPO法人がここでつまずくようでは、まったく話になりません。NPOに委託するとしても、ホール管理の実績がある企業NPOに委託し、振興事業はおまけ程度に、という選択もあるわけです。振興事業を重視した結果、FPAPを委託先として決定したと思われますが、そこにはリスクがあったはずです。この点で受付業務が円滑に行くように財団はきめの細かいフォローをしてくれています。このフォローには当然、業務量の増大が伴うわけで、これまでどおりのビル管理業者に委託するよりも、財団の仕事が増えていることは間違いありません。
話は脇にそれますが、事業のアイディアを出し、相当のリスクを負って決断し、事業を成功に導いた(まだ結論は出てないのですが)ことは、組織として高く評価されるべきだろうと思います。
文化芸術振興財団や行政の文化芸術担当部署というのは、文化芸術について一定の見識があります。行政の持っている情報量というのはやはり膨大です。さらには他都市視察などで、先進地の実例を実感することができます。また、一定規模以上の都市にはNPO活動を推進する担当部署が出来ているようです。
こうなってくると、行政は文化芸術とNPO活動の両方に理解があって良さそうなものです。しかしながらこの両部署がうまく連携を取れていると良いのですが、そこは組織論の限界のようなものがあります。文化芸術担当部署はNPO法人という組織については、NPO担当部署の見識を生かせてないようです。縦割り行政の逆機能といえますが、縦割り行政を超える機能性を実現している、組織論は今のところありませんから、それを望むのは無い物ねだりというところでしょう。今後、文化行政にNPOの力を取り入れていくのであれば、文化行政部署にNPO法人の設立と運営について一定の助言が出来るような体制もあればなお良いと思います。
今回の申請で、NPO法人の設立も行い、同時期に委託審査のためのコンペの準備というのは、ハードルの高い負担でした。しかしNPOの独立性を涵養すべく、一切ノータッチという考えも十分根拠のあるものです。NPO法人の設立と運営については結構な参考書籍等が、ちょっと大きな本屋さんに行けばありますので、FPAPがそうであるように不可能な話ではありません。またすでに機能しているNPO法人との共働ということであれば、助言は不要です。
ここでまた脇にそれますが、NPOとNPO法人はにていますが、いくらか違います。個人商店と株式会社くらいの違いがあります。
営利を主目的としないあつまりは、そのほとんどがNPOということもできます。(規約・民間・利益分配しない・自己統治・自発的という要件があります) それが、内部ルールを法律の範囲で定め、義務づけられた手続きを(各種申請と毎年の書類提出があります)行政に行うことでNPO法人となります。かなりいい加減な説明ですが。行政がNPOと共働して、何かしていこうとするとき、NPOに関する知識も必要でしょう。
現在、財団では係長級のNPO担当をおいています。これは文化行政の目的達成にNPOの力をうまく取り入れたいということだと受け止めており、財団の意気込みが伺えます。このような方針を財団が取っていることは、FPAPにとってはかなりのメリットだと言えるでしょう。また、これまで業者と呼ばれる企業との折衝から、NPO法人という属人的要素の強い団体との折衝が、要求されてくるわけですから、企業とNPO法人の違いについても一定の理解が必要でしょう。
企業とNPO法人というのは、その組織や意思決定手法にかなりの差があります。まず大きな違いは、NPO法人はポストによる権限で動いていない傾向がある。と言うことです。通常の企業であれば、ポストに沿った権限が定められて、その権限に沿って意思決定を行います。これはどんな仕事にも対応できる、優秀な人材がいる企業にこそ可能なことです。NPO法人の場合は、ポストに権限がついてくると言うよりも、人に権限がついてきます。
当然どのNPO法人でも、権限に関する内部規定をおくと思いますが、特に設立当初は、ポストにいる人をみて権限を考えますので、人が変われば、同一のポストでも権限が変わっているということが大いにあり得ます。極端な話、その人間が死んでしまったら終わりと言うことです。これは、中小企業にもみられることだと思います。また、社長が会長になったけれども、社長の権限はそのまま会長がもっているといったような例もあげられます。この辺は企業とNPOを分ける必要はなく、組織規模と設立してからの年月に収斂される事かもしれません。(法律が出来て間もないので、NPO法人歴うん10年のNPO法人なんてないのですが)
法人格のないNPOの場合、この傾向がもう少し、強いと考えられます。当然法人化してないだけで、そこら辺のNPO法人よりも厳格に組織化されたNPOもあると思います。
4 FPAPにとって幸運だったこと 〜委託先のNPOに必要な要件とは〜 |
FPAPにとって幸運だったのは、以下の能力を持った人材がいた(集めた)ことです。
・行政と共働の実績がある
・地元舞台芸術団体(人)にネットワークを持っている
・NPO法人を設立する法的能力がある
・企業での勤務経験があり、ワークフローや労務全般の枠組みをつくることができる
・設立後の具体的な振興事業を立案できる
・年間観劇数が100本を超える、有識者がいた
・舞台芸術に関する、著名な専門家がいた
・これらの人材をまとめることの出来る責任者がいる
まったく参考にならない結論ですが、要は人材というかんじです。当然、法人の代表者たる理事長がもっとも大きな役割を果たしていることは言うまでもありません。一定規模以上の都市であれば、これらの能力(優先順位を考え、いくつかは無くても何とかなるかも知れません。)を持った人材を組織化することは可能だろうと思います。もちろん行政主導で組織化することは難しく、行政の役割としては、あちらこちらに種をまき、発芽して芽を出すのを待つと言うところで、芽が出ないようなら「需要がなかった」という結論に至るのも一つの考えだと思います。
話が脇にそれますが、年間観劇数が100本を超える有識者は、FPAPの理事になっていただいてますが、その理事が福岡市職員ということで、官製NPOだ。という批判がありました。批判された方は、福岡のNPOの有識者ともいえる人でした。
しかしその理事が年間観劇数が100本の実績を持つ、希有な人材であることをご存じ無かったようです。またその方が行政の考えを代弁するようなことは一度もありません。遠目に見ればそんなふうにみえてしまうものかもしれません。あくまで個人としての参加です。 NPO法人一般に対する評価は、これから固まっていくのだろうと思いますが、本質を見据えた議論が必要なのだろうと考えます。
5 FPAPが委託先として、決定されるに至った経緯 |
FPAPが委託先として、決定されるに至った経緯について、説明いたします。
財団は「受付管理業務を、舞台芸術団体からなるNPOに委託」という考えを持ってから、多くの受け皿となりうる団体・個人に相談を持ちかけたようです。財団がNPO法人への委託案を華々しく打ち上げたはいいが、どこも手を挙げなかったとなると、寂しい限りなので、この打診は正当でしょう。最終的に財団からの募集に手を挙げた団体は2団体でした。
いずれも法人化は間にあっておらず、法人申請をしていることという条件にかなって、募集に申請いたしました。選考手段は各種書類の提出と、公開プレゼンテーションで、その結果、FPAPを委託先として選んでいただきました。
・舞台芸術関係者を中心に設立したこと
・ネットワークづくりに一定の実績があること
・具体的な振興事業
を評価していただいたと思っています。選考委員がネットワークというものを重視した(と思われる)のはすばらしいことだと思います。ネットワークが充実していれば、大抵の問題もそのネットワークを手繰っていくうちに、なんらかの解決策に出会うことがあるからです(時と場合によりますが)。
また何かやるにしても、そのようなつながりがあるのと無いのとでは、大きな差があります。FPAPを設立してから、そのネットワークに力添えいただいたことが何度あるでしょう。ネットワークの広さは、その団体の潜在能力として評価するべきでしょう。
現在のFPAPの体制について、説明いたします。
まず通常のNPO法人と同じく、社員総会があり、その下に理事会があり、その下に事務局が存在します。法律で社員総会の決定項目となっていること以外は、すべて理事会以下に権限をおろしています。少人数で機動的に動くためには、権限をなるべく下におろすということを心がけています。
実働部隊は事務局になります。FPAPの主な業務は以下の3点です。
・受付管理業務
・振興事業
・労務全般、
事務局は、事務局長1名(無給)、常勤職員2名(有給)、非常勤職員3名(有給)、サポートスタッフ(無給)でまわしています。受付管理業務に関することは常勤職員を中心にしてまわしていき、振興事業・労務全般・NPO法人維持業務については常勤職員を中心に実働し事務局長が統括しています。重要異例なことについては理事長の決裁を仰ぐというシステムになっています。事務局長は無給で非常勤です。これで業務を統括するのはかなり無理があるのですが、いわゆるITを活用してなんとかやっていると言うところです。常勤職員にパソコン関係に大変精通した職員がいますが、これは大変大きいです。この能力がなければ、現在のワークフローは出来てないと思われます。
どこの組織もそうであるように、FPAPも様々な問題を抱えております。現状では常勤職員が一生の仕事の場として働くことは出来ない財政状況なので、ここはなんとか打破していかなければなりません。そうでなければ、FPAPは一過性のものとなってしまいます。しかしこの問題は現在具体的な目処は立っていません。
現在、財団とFPAPとでは月1の協議をおこなって、受付業務に関することや、文化振興事業に関することを話し合っています。月1の協議で、財団からは管理職も含めた4名が出席しています。少なくともこれまでのビル管理業者とはこういったことは無かったはずです。短期的にみれば財団のコスト増となりますが、FPAPが一定以上に成長すれば、自律的に文化行政目的を達してくれることになり、長期的にみれば財団のコストを下げることが出来るかも知れません。そこまで考えてくれているのかどうか分かりませんが(多分考えていると思いますが)行政というのはなかなか懐の深いものです。
こちらとしては、この協議の場は地域舞台芸術の生の情報・生の需要を財団に投げかける機会ですから、貴重な機会として捉えています。また財団がFPAPを育成しようと、さまざまな苦労をしてくれていることがわかります。これについても財団が「育てよう」という意識を前面にださず、ともに勉強しようという姿勢をとっていることも、良好で対等な関係の醸成に大きく資しているでしょう。
その他、成功の要因として思いつくものを上げてみます。
・財団が、NPO法人が職員を常時雇用できる委託料を予算としてもっていた。
その予算が、NPO法人が専従職員を二人ギリギリ雇える数字だったことも重要な要素です(多いに越したことはないのですが)。NPOを法人化すると、法人維持のための業務が出てきて、それを行うために人を雇うと、人を雇用する業務が出てきます。現在の事業量を考えると、ギリギリ必要最小限の予算はあります。将来的には不安ですけど。
・NPOが法人業務と受付業務と、振興事業の業務量のバランスを適正に配分できた。
感覚的に言えば、受付業務5 法人業務2 振興事業3と言ったところ。ほったらかしていても後から自然についてくることなので、そんなに重要じゃないです。
・NPOの予算管理が適正であった。
まず、人件費を確保して、余力があれば事業を行う。なるべく予算を要さない事業から行っていく。だれでもそうするでしょうから、そんなに重要じゃないです。
・NPOは演劇団体のネットワークを維持、拡張しようとつとめ、演劇団体からの理解が得られるようにつとめた。
これは、FPAPがどれだけ成功しているのか、はっきりと目に見えないので何とも言えませんが、今のところお叱りを受けているわけではないので、理解は得られているようです。これはかなり重要です。
・福岡は地元の演劇が盛んだった。
これは、必須条件です。人口が50万を超えて、地元団体による利用率が高いホールがあることも必須条件でしょう。
・財団がリスクを負ってNPO委託の方針を決定した。
とりあえず、思いつく限りのことを文章にしてみました。サイトに載せられるのはここらあたりだろうと思います。つっこんでもらったらいろいろ思い出すかも知れません。もし他都市の方が招聘していただけると言うことであれば、喜んで伺います。財団の担当者の方と、一緒だとなお良いと思います。
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