幸田真洋の初心者向け戯曲ワークショップ

タイトル
幸田真洋の初心者向け戯曲ワークショップ「実際に書き出してみる第一歩」
日時
2019年11月23日(土)13:00〜18:00
場所
福岡市内会議室
講師
幸田真洋(劇団HallBrothers代表)
募集サイトはこちら→募集ページ

幸田真洋の初心者向け戯曲ワークショップ「実際に書き出してみる第一歩」

講師写真

 劇団HallBrothers代表の劇作家・幸田真洋氏を講師に招き、初心者・未経験者を対象とした戯曲ワークショップを開催しました。

 その一部をご紹介します。

 まずは講師である幸田さん自身、どのようにして戯曲を書き始めたか、という話から始まりました。

幸田さんが戯曲を初めて書いたのは、高校1年の春に演劇部で、1年生は全員書けと言われたからとのこと。先は考えずに冒頭だけ書いたところ、先輩から褒められ「頑張って書けよ」と言われたのでまた書きたいなという気持ちが湧いたそうです。

 15歳で初めて戯曲を書き始めてから現在までで、短いのも含め67本の戯曲を書いてきた、という幸田さん。37歳の時に九州戯曲賞大賞を受賞しましたが、それから少しずつ評価されてきているという手ごたえを感じているそうです。

「すぐ評価をされる人もいる中で自分は時間がかかったし、もとからの才能はないと思う。でもだからこそ、こうやったらうまく書けるのでは、という試行錯誤してきた方法を皆さんにお話しできたらと思っている。初歩からやっていきたいと思っています。」とご挨拶。

 


■「戯曲」とは何か?

「戯曲」とは何か?という質問に、受講者からは
・書いてあるもの
・芝居に使うもの
・セリフに特化したもの
といった答えが返ってきました。

戯曲(ぎきょく):詩や小説同様、文学作品の形式のひとつ。演劇の上演を目的として書かれることが多い。登場人物の台詞やト書き・舞台装置の描写等で構成される。台本・脚本とも言う。

 上記の通り「戯曲」は「文学作品」のひとつとも言われます。
 「文学作品というと他にはどんなものがあるか」という質問には、受講者から
・詩
・小説
・俳句
・短歌
という答えが。
 この中でも戯曲と小説には似たところがあります。
・起承転結があること
・セリフや会話があること
が共通していますね。

 「それでは逆に、戯曲と小説の違いは?」という質問には、
・小説は読み手がいて、読むことで完結する。戯曲は上演をする。

という答えが受講者から返ってきました。

「戯曲は上演を前提として書かれているもの」ということを確認しました。


 

 

 


■戯曲の要素

 「演劇用語解説」という資料が配られ、それぞれの用語について触れていきました。
 まず、「台詞」と「ト書き」について。

台詞(せりふ): 戯曲の中で、登場人物がしゃべる会話や独白の言葉。登場人物同士の会話・独り語りをする独白・観客に語りかける独白など。漫画で例えると、会話部分は吹き出しの中・独白はモノローグなどにあたることが多い。

ト書き(とがき): 戯曲の中で、舞台装置の位置や登場人物の動作を指定する文章。 歌舞伎の脚本で、俳優の動きを指示する文章の頭に「ト急に辺りが賑やかになる・・・」など「ト」がついていたことから由来。

 戯曲は「ト書き」と「台詞」で構成されています。
 ト書きはどのくらい書くべきなのか?という問いに正解はありません。ト書きが長い人短い人もおり、作家の好みやこだわりがあったりするとのこと。

・役者もスタッフもト書きを頼りにする。
・舞台美術なんかはト書きが具体的だと分かりやすい。
・演出に任せたい場合はト書きが少なくなる。

ということで、ト書きは「読んでくれる人に何をどうやって伝えたいのか」を考えながら書きましょう、というお話がありました。

 次に、上手・下手という用語について。

上手(かみて)/下手(しもて): 客席から舞台を見た時の右側を上手といい、客席から舞台を見た時の左側を下手という。

 こだわりがなければ戯曲の時点で「上手から登場」など指定する必要はありません、とのこと。

 カットイン・カットアウト・フェードイン・フェードアウトについて。

カットイン/カットアウト: 音響や照明の操作指示。急についたり消えたりすること。

フェードイン/フェードアウト: 音響や照明の操作指示。徐々についたり消えたりすること。

 余韻を持たせたい場合はフェードイン・フェードアウト、メリハリを持たせたい場合はカットイン・カットアウトを用いたりします。自分の中でイメージができていれば指定した方が書きやすくなるかも、とのことでした。

 さて、ここまで戯曲についていろいろ話してみました。
 ここでひとつ、戯曲を読んでみましょう、ということで、1ページ分の戯曲を読み解いていくという作業を行いました。  

 ◆戯曲資料


 ここから何が読み取れるか?と読み解いていくには、5W1Hを考えると分かりやすくなるというお話がありました。 5W1Hとは、「Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)」です。 この戯曲ではそれぞれに何が当てはまるか、という作業をやってみました。
 受講者からは色々な意見が出て、1ページの戯曲にもたくさんの読み取り方があり情報が詰まっているということを確認できました。


 

 

■戯曲を書いてみる

 配布された設定表の中からどれか一つを選び、それに沿って戯曲を書いてみました。

設定表

 受講者が執筆した戯曲を執筆者以外の参加者で読み合わせをした後、それぞれ幸田さんからの講評が行われました。
 どれも受講者の個性が伺える、面白い作品でした。
 講評の際に一般的な話として出たアドバイスの一部をご紹介します。

・喋りやすいせりふというのがある。説明が多すぎると喋りにくい。自分が書いたものが喋りやすいかどうかは、誰かに実際読んでもらうとよい。不自然だと覚えにくかったりもする。
・自分がイメージしやすい場所から書き出すというのは良いやり方。イメージできないことは書けないので。
・戯曲の書き方について。スマホ、PC、手書きなど、自分に合った書きやすい方法があったりするので色々試してみるとよいかも。
・小道具をうまく使って画で心情を表現しているシーンがよかった。台詞でうまく書けない時は画で説明するという手もある。
・伏線とその回収というと難しそうだけど、自分はフリとオチという言葉を使ったりする。すごく小さいことでも、フリとオチをつけると見ている人の想像力が働く。

などなど。

 


■新たに一人登場させて続きを書いてみる

 一度全ての受講者のリーディング・講評が終わり、次は今書いた戯曲にもう一人新しい人物が加わるという展開で、続きを書いてみることになりました。 書いた戯曲を再度リーディング、そして講評が行われました。
 下記は二度目の講評の際に出たお話です。

・たくさん書きすぎずに余白があった方が情緒・余韻が生まれたりする。
・曲のチョイスや題材は、全体の統一感というものを意識するよい。
・後からいきなり新しい要素が出てくるより、先にさりげないフリ(あ、あそこでそういえばなんかあったな)くらいものがあると良いかも。
・書いているときは気が付かなくても、実際に上演すると間が持たないとか、間が不自然ということがある。
・同じことが繰り返されたり展開に変化がなかったりするとお客さんは飽きてしまう。新しい人が出てくると新しい展開が生まれるので、展開に困ったら新しい人を一人出してみるといいかも。その人が持っている新しい情報が入ってくる。
・真似したところで結局その人にはなれない。自分が生きて感じたことを書いていくと自然に個性は出てくる。今回の受講者の作品は全て個性が出ていて素晴らしかった。

 さて、書いてみる作業は一旦ここで終了です。
 「実際書いてみて、意外と書ける!となったかと思います。一番うまくなる秘訣はとにかく書き続けること。」とこれからの執筆について幸田さんからアドバイスがありました。

 


■プロットや起承転結について

 最後はプロットや起承転結についてのお話。
 プロットとは下記のようなものです。

プロット例

 

 「自分も今はプロットを作るが必ず作らなければならないということはない。参考程度に。」という前置きから入りました。 幸田さんは執筆を始めて7,8年くらいは作っていなかったそうです。
とはいえ、プロットを書くと書きたいことの道筋が見えてきます。「縛られる必要はないが、整理した方が自分にとって分かりやすければ道しるべとしてこういうものを利用するといいかも」、とのことでした。

  起承転結も整理していくとさらに分かりやすくなってきます。
 では、「起承転結」ってなんでしょう?
 それぞれどのようなものだと思いますか?という質問には、受講者からは下記のような回答がありました。

起:きっかけ、はじまり
承:始まりの続き、起をうけてふくらませる
転:別の展開、何か転がる、何かが変わる
結:まとめ、結末

 「自分は昔、あまり考えずに書いていて、起承承承承転結という感じでバランスが悪かった」、と幸田さん。それだと説明が続いてつまらなくなったりする、とのこと。 プロットで起承転結のバランスを考えていくとキュッとシャープな感じになるかも、というアドバイスがありました。

  幸田さんが現在戯曲執筆の際に行っている方法として、登場人物ごとに分けて表をつくることや、時間配分をプロット段階で考えること等が紹介されました。
 また、ハリウッド映画の冒頭15分だけをみると最初の起の部分の参考になる、というアドバイスも。演劇と映画という違いはありますが、ハリウッド映画にはメソッドのようなものがあり、どのように物語を始めるか、というところは勉強になるところが多いようです。 人間の集中力が続くのは大体15〜20分と言われているので、そこまでに新たな展開がないと飽きちゃうかも、というのを頭に入れておいた方が良さそうですね。

 「色々お話しましたが、縛られる必要はないのであくまで参考程度に。いっぱい書いていく中で自分なりのやり方を見つけていってください。書けなくなる時というのはこう書かなきゃ、とか何かにとらわれていることが多い。どこから考えてもいい、どこから書いてもいいので自由に自分に合う方法を見つけていくのが一番いい」、と幸田さん。

 そして最後に、「書き方が違う部分もありますが、皆さんは今日、短いシーンを書くことができました。課題もクリアできました。プロット例では、ひとつのシーンが3分くらいになっています。短編の戯曲はきっと書けます。そして、書いたものをぜひ上演してください!」という激励のお言葉。

 受講者からは2回目をやってほしいという声もあがり、大好評の中終了となりました。

主催

主催:NPO法人FPAP
協力:九州地域演劇協議会

過去の関連事業 (実績レポート)

■2015年1月開催 後藤香の初心者向け戯曲ワークショップ 「まずは1シーン書いてみよう!」(講師:後藤香)

■2014年11月開催 土田英生の初心者向け戯曲ワークショップ *実際に書き出してみる、第一歩*(講師:土田英生)

■2013年8月全2日開催 初心者・未経験者のための戯曲ワークショップ「書こうぜ、せりふっ!」(講師:島田佳代)

■2011年〜2012年全5日開催 戯曲ワークショップ「都市日記fukuoka」(講師:松田正隆)

■2011年10月全2日開催 演劇づくりの一歩!初心者・未経験者のための戯曲ワークショップ「あなたのぎきょく」(講師:樋口ミユ)

■2010年〜2011年全6回開催 誰にでも書ける、貴方にしか書けない戯曲講座(講師:泊篤志) [職員ブロクより]

■2010年7月〜8月全2日開催 「一枚の写真からはじめてみる」初心者のための戯曲ワークショップ(講師:田辺剛)

■2009年9月〜全5日開催 永山智行のもっとヤクニタタナイ戯曲講座(講師:永山智行) [職員ブロクより]

■2009年7月全2日開催 誰にでも書ける、貴方にしか書けない戯曲ワークショップ(講師:泊篤志)