ブログトップへ

地域の魅力ある表現~連続上演をふりかえって

古賀です。

演劇祭が終わり、演劇祭に関連する資料などを整理しつつ、
自分の担当した企画についてもその企画意義などについてふりかえっているところです。

私は、演劇祭では連続上演「春、夜中の暗号」「よかっちゃん」の2作品のうち、「春、夜中の暗号」を担当していました。

このブログでも何度かご紹介しましたが、この連続上演の2作品の戯曲の作者は、
宮園瑠衣子さんという福岡で活動されている劇作家です。

「よかっちゃん」は、第5回かながわ戯曲賞で最終選考に選ばれた作品であり、
「春、夜中の暗号」は、昨年より設立された九州戯曲賞で、第1回目の九州戯曲賞最終選考に選ばれた作品です。

九州戯曲賞の最終審査では、審査員の松田正隆さんが「春、夜中の暗号」を押していた経緯もあり、
演劇祭では、9/7におこなった公演後のアフタートークに松田さんを迎えてアフタートークもおこないました。

演劇祭では、地元の魅力ある優れた作品を紹介するというねらいで宮園さんのこの2作品に注目しました。
そして、2作品をそれぞれ違った演出家による連続上演という形で公演をおこないました。

宮園さんの作品は、一見、一つの軸にそって物語は進んでいきながらも、
その物語の登場人物とそれぞれの人物背景、関係性、時間など、戯曲の根幹となる要素について多くを示さず、
観客の想像にゆだねる部分が多くあるのが特徴的です。
こうした作品は、福岡にはあまり見られないものだろうと思います。

演出は、「春、夜中の暗号」では、地元福岡で活動する劇団 HallBrothersの幸田真洋さんに、
「よかっちゃん」では、東京で活動するあなざーわーくすのわたなべなおこさんにそれぞれお願いしました。

幸田さんには、「春、夜中の暗号」に登場する男女の奇妙な関係性を、
受け手によって様々な解釈が可能な方向を探りながら、静かなお芝居に組み立てていただきました。
戯曲に忠実な演出であったといえます。

一方、参加型演劇という独自の手法をもつわたなべさんには、
その参加型演劇を存分に取り入れていただき、
観客が劇中蝉の声を担当するなど作品の一部として、
わたなべさんが手がける「よかっちゃん」の独特な世界観をつくり上げていただきました。
こちらは、私自身、当初戯曲を読んだ時とはずいぶん印象が違って驚いたのを覚えています。
こういうタイプの演劇も福岡ではほとんどみられないものだと思います。

同作家の作品でありながら、全く毛色の違う演出によってだいぶ印象の違う作品となりましたが、
連続上演の形として行なうにあたって、共通の装置を使うなどの限られた条件がありました。
この部分で苦労することもありましたが、その限られた条件の中で、
お互いの作品の魅力を最大限に活かすやり方を探る現場に立ち合うことができ、
私自身も非常に良い経験になりました。

私は今回これらの戯曲が一つのお芝居として作り上げられていく過程に立ち合う中で、
様々な解釈が可能で、また受け手によっていくつものイメージが増幅されていくこれらの作品に強い魅力を感じました。

そして、作家とは別の演出家が演出を手がけることで、
作品に対する掘り下げ方がまた違い、
それがこの作品の魅力を引き出す一つのポイントになったのではないかと思います。

演劇祭で、連続上演「春、夜中の暗号」「よかっちゃん」を観ていただいた方の中で、
これらの作品に魅力を感じていただけた方がいればこれは演劇祭の成果の一つです。

こうした地域の優れた魅力ある作品の存在を知ることで、
地域の文化芸術により一層関心を持ってもらえたらと思います。